高知地方裁判所 昭和61年(ワ)486号 判決 1988年12月26日
原告
松村菊水
被告
有限会社タカツキ高知
ほか一名
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは、各自原告に対し、金一四二万円及びこれに対する昭和五八年八月二八日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの連帯負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1 昭和五八年八月二七日午後三時二五分頃、亡永尾正直が、普通乗用自動車を運転し、高知市東城山町一〇六番地先国道を進行中、右国道の左端に停車したところへ、被告遠香俊彦(以下「被告遠香」という。)が原付自転車(排気量五〇立方センチメートル)を運転し、右自動車に高速で追突する交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。
2 原告は、右永尾正直の運転する自動車に同乗していたものであるが、右追突の衝撃により、右股関節神経症、頸椎症候群、左膝打撲の傷害を受け、直ちに高知市の平田病院で治療を受け、その後土佐市の市民病院や川田整形外科に転院し、今日まで通院治療を続けてきたが、回復がはかばかしくなく、右足の運動が不自由で痛みがあるため、歩行に支障があり、又鞭打ち症による頭痛、めまいも去らず、左足膝も痛み、腫れがあり、起居もままならない状態である。
3 被告遠香は原付自転車を運転していて、前方不注視の過失により本件事故を起こしたものであり、被告有限会社タカツキ高知(以下「被告会社」という。)は右原付自転車の所有者で、当時の代表者佐伯照敏は被告遠香の父に当たり、日頃同代表者や被告遠香などその家族が右原付自転車を運転するのを認めていたものであるから、被告会社は、本件事故について運行供用者として責任があるものであり、被告らは不真正連帯債務を負うものである。
4 原告は、本件事故当時雇用保険法の適用を受け、毎月少なくとも金七万円以上の失業保険金の支給を受け、事故当時なお六か月の支給が受けられるはずであつたが、本件事故により就労不能と認定され、その支給を打ち切られたので、これにより少なくとも金四二万円の収入を失つた。
5 原告は、前記の傷害により三年間肉体的、精神的に筆舌に尽し難い苦痛を受けたので、これによる三年間の治療中の苦痛に対し、慰謝料として被告らに各自金一〇〇万円を請求する権利があり、前記の損害と共に被告らは連帯してその支払いをすべき義務がある。
6 よつて、原告は、被告らに対し、各自金一四二万円及びこれに対する事故の日の翌日である昭和五八年八月二八日から支払ずみまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実のうち、本件事故の発生年月日、発生場所、被告遠香が原付自転車で停車中の普通乗用車に追突したことは認め、その余は不知。高速との点は否認する。
追突時の原付自転車の速度は、時速約三〇キロメートルであつた。
2 同2の事実は不知ないし争う。
排気量五〇立方センチメートルの原付自転車が軽四輪自動車に時速約三〇キロメートルで追突した場合の人体に対する衝撃の程度は微々たるものである。
3 同3の事実のうち、事故の発生及び被告会社が本件原付自転車を所有していることは認め、その余は争う。
4 同4の事実は不知ないし争う。
原告が、就職促進手当(又は失業保険金)を支給されなかつたのは金一六万五五四〇円に過ぎない(この点は、原告も認めるところとなつた)。
5 同5の事実は不知ないし争う。
本件について原告が三年間の治療を要したというのは甚だしい誇張である。本件事故の態様、通院状況(平田病院での実治療日数五一日間)から考えて、慰謝料としては金二五万円程度が相当である。
三 抗弁
原告が蒙つた損害については、自賠責保険から金四八万八九一一円、被告遠香から金一三万円、合計金六一万八九一一円が弁済された。
四 抗弁に対する認否
認める。
第三証拠
証拠関係は、本件訴訟記録中の書証目録、証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 本件事故の発生、態様については、被告遠香運転の原付自転車の追突時の速度の点を除き、争いがない。
二 成立に争いのない乙七号証、一六号証、証人平田陽三の証言並びに同証言によつて真正に成立したと認められる甲二号証によれば、原告が本件事故により、右股関節神経症、頸椎症候群、左膝打撲の傷害を受けたことが認められる。
三 成立に争いのない乙一ないし三号証によれば、本件事故は被告遠香の前方不注視の過失によるものであることが認められる。
被告会社が本件原付自転車の所有者であることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙三号証によれば、当時の被告会社の代表者は被告遠香の父であることが認められるから、被告会社は運行供用者として責任を負うと認めるのが相当である。
四 成立に争いのない乙一二号証の四、一七号証によれば、本件事故により原告が支給を受けられなかつた就職促進手当は金一六万五五四〇円であることが認められる(この点は当事者間に争いがない)。
五 慰藉料について
1 本件事故の態様、傷害の程度、治療の経過等につき、次の各事実が認められ、他にその認定を覆すに足る証拠は存しない。
(一) 本件事故の態様は、原告が停車中の普通自動車に同乗中に、被告遠香運転の原付自転車が追突したというものであり、追突の際の速度については、前掲乙三号証によれば、被告遠香は時速約三〇キロメートルであつたと述べており、前掲乙一号証でも、その速度で追突したものとして送致されたことが認められる。
(二) 前掲乙七号証によれば、本件事故の四日後に作成された診断書では、原告が受けた傷害は加療二週間を要するとされ、他覚的異常所見なしとされている。
(三) 前掲乙一六号証によれば、原告は昭和五八年一一月一六日から就労可能であると診断されている。
(四) 証人平田陽三の証言によれば、原告には他覚的所見はなく、原告の自覚症状だけであつたことが認められる。
(五) 原告本人尋問の結果によれば、原告は、前記平田医師が就労可能と判断した昭和五八年一一月一六日当時寝返りも打てない状態であつたこと、その後も治療を要する状態であつたが、交通費がなくて治療できなかつたと述べ、また、原告本人尋問がなされた昭和六二年七月二〇日には、今の方が事故の時より余計に痛い状態であるとか、今でも左半身が痺れている状態で、足があがらないので風呂にもひとりでは入れないと述べている。
以上の各事実が認められる。
2 そこで検討するに、
(一) 本件事故の態様は、前述のとおり、停車中の普通自動車に原付自転車が追突したというもので、その速度は時速約三〇キロメートルとされていること、原付自転車を運転していた被告遠香が怪我をしたかは明確ではないが、事故の四日後に行われた実況見分には、被告遠香も立ち会つていることに鑑みても、右被告が重傷を負つたとは考えられず、原付自転車の速度が特段の高速であつたものとは認められない。したがつて、普通自動車に同乗していた原告が受けた衝撃もそれほど大きいものであつたとは考えられないところである。
(二) 原告には、事故直後から他覚的所見はなく、原告本人の痛みの訴えのみであり、事故からほぼ三か月後には、担当医師からも就労可能と判断されている。
(三) 以上の事情のもとでは、本件事故により原告が、その主張のように長期間治療を要するような傷害を受けたものとは到底認めることはできない。
3 以上を踏まえ、原告の主張を多少考慮して、慰謝料として金四〇万円をもつて相当と認める。
六 以上によれば、原告は、本件事故による損害賠償として、逸失利益分金一六万五五四〇円、慰謝料分金四〇万円、合計金五六万五五四〇円を請求できることとなり、原告が、本件事故の損害賠償として、右金額を上まわる合計金六一万八九一一円を受領していることは、当事者間に争いがない。
七 以上によれば、原告の請求は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 宮本敦)